強相関電子系物質、有機電荷移動錯体のレーザー分光、光物性

電子材料と呼ばれる物質の結晶の中には膨大な数の電子が含まれ、この電子の動きによって機能が生み出されています。これらの電子は互いに影響を及ぼしていないようにふるまうこともありますが、互いにきわめて強いクーロン力(強相関効果)を及ぼしあうことがあります。遷移金属化合物や有機分子性結晶においては、この強相関効果が電子状態に重要な影響を及ぼし、電子状態と密接な関係のある光学的性質を決定づけています。その結果、従来の電子材料とは異なる興味深い光学応答を示すことがあります。我々は、分光学的手法を用いて強相関電子系に特徴的な電子状態を調べています。たとえば、金属になると予想される化合物が電子相関効果のために、絶縁体になることがあります。単純な予想とは異なる状態とはどのような状態なのか、またどのような理由でそのような状態になっているのかについて、反射分光、吸収分光、ラマン分光などの方法を用いて研究しています。さらに電子状態の理解に基づき、電子状態や光の状態の制御を行います。光や電場などの外場を与えることにより、非線形光学応答、非線形伝導現象、様々な相転移などが実現します。このように、強相関電子系における状態制御と機能性発現を目指して研究を行っています。

導電性高分子の非線形・線形光学応答、伝導現象

導電性を有する高分子として知られる共役系高分子おいては、炭素原子がひも状(鎖状)に連なり、一重結合と二重結合が交互に配列しています。この高分子の電子的な性質はπ電子によって決まっています。ドーピングにより金属的な伝導を示すこと、電場印加により発光が観測されることなどから、応用範囲の広い材料としても研究されています。この鎖状の電子系は、周りの分子とは電子的な接触が小さいために、光学的には、擬似的に一次元的な性質を示しますが、周りの分子や環境との関係を制御することにより光学応答の制御が可能です。この興味深い電子系における新しい光機能性を開拓するために、様々な分光手法を用いて研究しています。たとえば、超短パルスレーザーを用いた非線形分光による研究を行っています。光照射すると、これらの系は10-12秒のスケールでπ電子の状態が変化します。このような現象を利用して光のスイッチイング動作が実現できます。どのようにこの現象を効率よく起こし、それはどういった機構で起こるのかを研究しています。さらに、高分子における電気伝導のメカニズムの解明をめざし、超短パルスレーザーを使用したテラヘルツ分光による研究を行っています。

ナノカーボン・原子層物質の超高速光学応答

我々の身の回りにある黒鉛やダイアモンドは炭素原子が三次元的に規則正しく並んだ構造をしていますが、その次元が二次元、一次元、零次元と低くなった同素体が存在します。これらはそれぞれグラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレンと呼ばれ、総称してナノカーボン物質と呼ばれます。ナノカーボン物質およびこれらを構成要素とした物質や厚さが原子数個分の原子層物質は大きな非線形光学応答を示すことが知られており、光を用いた光の制御に必要となる非線形光学材料の候補として期待されます。より大きな非線形光学応答を示す物質の考案および設計には、光学応答の物理的起源を理解する必要があります。特に、非線形光学応答の理解には、光励起状態の緩和過程を解明することが重要です。本研究室では、ナノカーボン・原子層物質の超高速な緩和過程を、フェムト秒(10-15秒)時間領域の過渡吸収測定(ポンプ・プローブ測定)および時間分解発光測定によって研究しています。 [図]グラフェン
グラフェン: 炭素原子の六員環が二次元的に並んだ物質

有機絶縁体・誘電体の強電場効果と光学的観察

上述の強相関電子系物質である有機電荷移動錯体に電場を加えると、金属化などの相転移や伝導状態の変化を示すことがあります。また、有機電荷移動錯体の中には(強)誘電体としての性質を示す物質群があります。このように電場に対して応答する物質に(強)電場を印加して生じる状態変化を光学的に観察します。定常・平衡状態からは予想できない動的な変化の研究には光学的な手法を用いるのが適しています。空間的な分布、時間的変化などの観察を通じて、相転移や状態変化の機構、外場印加による非平衡状態の理解と制御を目指しています。

バイオマテリアルの光物性

人工的に合成されたDNAやバクテリオロドプシンといったバイオマテリアルは、生物学的な観点から重要なのはもちろんのこと、その特別な構造に由来した電子機能材料とみなすことができ、応用物理分野におけるとても興味深い研究対象です。これらの物質を舞台として、きわめて美しい物理現象や光学応答が実現されています。たとえば、精密に制御されたDNA-色素複合系においては、埋め込まれた色素間の光励起エネルギーの移動をつぶさに観察することができます。これらの系において、基礎的な物理現象を理解し、状態を能動的に制御し、新しい光機能性を創出することを目指して研究を行っています。